大学教員の業務内容

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大学教員は忙しい

以下,事実を元に構成した架空の大学教員の業務量を示します.1年間の従事日数を示しますが,あくまで目安です.事実にもとづいた架空の従事日数であるため,合計値が合いませんが,参考程度にご覧下さい.

【75日間】査読

国際会議のプログラム委員(査読委員)を6件,国内会議のプログラム委員(査読委員)を2件引き受ける.英文論文誌の編集委員を1件引き受ける.

国際会議の英文論文の査読を18件引き受ける.国内会議の英文論文の査読を4件引き受ける.国内会議の和文論文の査読を10件引き受ける.英文論文誌の査読をのべ12件引き受ける.和文論文誌の査読をのべ9件引き受ける.

査読業務はボランティアであり,手当が出るわけではない.本務である教育や研究の時間の妨げとならないようにするため,断るべき査読依頼は断るべきである.査読依頼によっては,自分の専門分野とは異なる論文が割り当てられることがある.それを無理矢理引き受けて査読した場合,投稿した著者にとっても迷惑な話である.査読論文と自分の専門性を勘案して,断るべき査読依頼は積極的に断るべきである.

国際会議のプログラム委員(査読委員)を1件断る.国内会議のプログラム委員(査読委員)を1件断る.国際会議の英文論文の査読を1件断る.英文論文誌の査読を4件断る.和文論文誌の査読を1件断る.

これは,査読業務に限ったことではない.無駄な業務は無駄なのである.自分の専門性や抱えている業務量,キャリアパス,費用対効果,自分が断った場合代わりが見つかるか否か,など総合的に判断し,断るべき依頼ははっきりと断る必要がある.断るべき業務であるにも関わらず引き受けた場合,自分や周りや相手に迷惑がかかることをしっかり理解することが重要である.

【63日間】学内委員

どういった業務があるかを列挙する.

年に2回,学期初めのガイダンスに出席.成績の悪い学生と面談をおこない,面談結果をシステムに登録する.ガイダンスに欠席した学生に成績表を取りに来るように掲示を出す.成績表を取りに来なかった学生に電話をして,取りに来るように伝える.履修確認表を事務局から受け取り,必修授業をやっている教室に行き,履修確認表を配布する.必修授業を欠席した学生に対して,履修している授業をやっている教室に行き,履修確認表を渡す.その授業も欠席している場合,履修確認表を取りに来るように掲示を出す.履修確認表を取りに来なかった学生に電話をして,取りに来るように伝える.授業の欠席が続いている学生に対して電話をして,部屋に来るように言い,面談をおこなう.電話に出なかったり,面談に来なかった場合は,両親宛に郵便を送る.

休学や退学を希望する学生と面談をおこない,面談結果を文章にまとめ,届に押印する.

一泊二日の新入生向けオリエンテーション合宿に参加する.割り当てられた班で,学生と一緒に山道を歩く.学生と一緒にドッジボールなどをおこなう.学生達にシーツを配る.学生達からシーツを受け取り,正しく折りたたんでいるか確認し,正しい折り方ではない場合はやり直しをさせ,受け取ったシーツの数を記録する.ふとんが正しくたたんであるか確認し,正しくたたんでいない場合はやり直しをさせる.貴重品を預かる.貴重品を返却する.ライン引きの道具など,施設の道具を運ぶ.マイクなど,道具を車から運んで準備する.学生達に使用後のモップ掛けを指示する.キャンプファイヤー用の薪をワイヤーから外して並べる.キャンプファイヤーの火にバケツで水をかける.ドッジボールなどの司会をおこなう.

バス会社のウェブサイトから,バスを予約し,見積書や請求書をもらい,事務局に提出する.企業に電話やメールをし,日程の調整をおこなう.教員にメールをして日程の調整をおこなう.学生の必修授業の教室に行き,説明をおこない,参加の可否を調査する.当日履修している授業の担当教員にメールし,当日は学生が欠席するが便宜を図って欲しいということを依頼する.バスに乗る学生の人数を記録する.企業の見学に同行する.アンケートを実施し,スキャンし,企業にメールする.

コンピュータ演習室に行き,プリンタの用紙があるか確認し,なくなりそうだったら補充する.コンピュータ演習室のプリンタにエラーが出ていた場合,業者に連絡して対処してもらうように伝える.

ホームページの更新作業をおこなう.

大学の広報誌に学生へのインタビュー記事を載せるため,優秀な学生を紹介してもらうように先生方に依頼する.

中期計画の最終年度でまとめる書類を執筆する.

慶弔事が起こった際,見舞金を封筒に入れて渡す.参加の可否をメールで問い合わせ,居酒屋に予約をし,集金する.

担当者を決めるため,教員のメーリングリストにメールをする.学生のレポート用紙を運ぶ.

高校の進路指導担当の先生が来学したときの引率をおこなう.高校に電話をして日程を調整し,高校に訪問し,進路指導担当の先生に話を伺う.

メーリングリスト作成のため情報処理センターにメールをする.無線LAN利用のため情報処理センターにメールをする.ポスターを作成して印刷する.予算を使う許可をもらうためメールをする.業務に従事してもらえるように教員に依頼のメールを送る.教員にメールをして資料をもらう.司会をする.学内ウェブシステムを使って部屋を予約する.高校生を引率する.遠隔授業の設定をおこなう.高校生の相談相手をする.受付をする.自分の担当授業などでアナウンスをして,学生アルバイトを募集する.学生アルバイトに書類を渡し,記入してもらい,書類を集め,事務局に渡す.学生アルバイトに業務内容の説明をおこなう.パーティションを移動する.ポスターを設置する.紙とペンを用意する.購入物品の要望を事務局に伝える.物品を運ぶ.案内用紙を貼る.原稿を提出してもらうように先生方に依頼のメールを出し,原稿を正しい順番にリネームし,目次や地図を作成し,事務局に提出する.学生ボランティアを各研究室から出してもらうように先生方に依頼のメールを出す.ホームページを作成する.ゲストアカウント発行のため情報処理センターにメールをする.

ルーブリック評価表を修正する.ルーブリック評価表を集計する.集計結果を文書にまとめる.文書を見て議論する.議論に参加してくれる学生を募集する.学生が書いた議論結果の紙の文章を電子ファイルに書き起こす.

年に2回,学期初めのガイダンスのタイムテーブルを作成し,配布資料を学生に電子的に提供する.学生にアンケートに回答するように催促をする.卒論修論の提出不備に対して学生に催促をする.卒論修論発表会のタイムテーブルと予稿集の目次を作成し,会場の設営をおこなう.ルーブリック評価表を修正する.ルーブリック評価表を集計する.学生と面談を実施する.推薦書を作成する.

定例会議に出席する.専攻会議で意見を収集する.

【42日間】学会運営

学会の運営は担当する役割に応じて異なる.学会運営はボランティアであり,手当が出るわけではない.

ここでは,Organizing Chair(現地担当者)の業務を紹介する.特別講演者にお金を渡して書類に押印してもらう.それぞれの委員会の委員長にメールをして,委員会開催の日時と参加予定人数と弁当の要不要と領収書の宛名を聞いて,会場の部屋の割り当てをする.それぞれの学会ごとに,それぞれの学会が使用する時間帯のみの領収書を作成してもらうように業者に連絡し,領収書を学会に送付する.学生アルバイトの数と委員会参加予定人数をもとに,それぞれの昼と夜の弁当の個数を計上し,業者に伝える.居酒屋の予約をする.バンケットでプレゼンを行う他大学の先生方にメールし,発表資料を送ってもらうように依頼し,受け取った資料を一つにまとめる.バンケットに追加で用意する飲料をデパートで購入して持って行く.賞金の目録を購入して印刷し,受賞者から銀行口座を聞いて振り込む.賞の受賞人数を担当の他大学の先生から聞き,賞状用紙を購入し,賞状の文面を実行委員の先生方から教えてもらい,前日までに決まっている受賞者は印刷し,会期中に決まる受賞者は決まり次第急いで受賞者の論文タイトルと著者を入力して印刷し,会議のハンコを押す.賞状の筒を購入し,当日の受賞者に筒も渡し,当日欠席した人と当日に賞状を渡さない賞に対しては賞状を筒に入れて緩衝材でくるんで住所を調べて入力して宅配便で送る.日本酒などの副賞を選定し,購入し,持って行き,当日受賞者に渡す.学生アルバイトを確保してシフトを組むように別の担当者に依頼し,学生アルバイトの領収書を作成し,領収書を渡して押印してもらって回収し,アルバイト代を渡す.無線LANのSSIDとパスワードを会場から聞いて,それを他の実行委員に伝えるとともに,印刷して会場に貼る.学生アルバイトにお願いする業務内容をまとめて,作業内容を伝え,カメラ係はカメラを用意することや,ポスター会場係は投票箱を作るように,マイク係はマイクを持っていくことや,タイムキーパーはiPadアプリを用意することや,委員会の会場に弁当を持って行くことや,デモ機材の見張りをすることや,初日の誘導などを依頼する.受付の机などの配置を学生アルバイトに伝え,配布物を順番通りに並べるように指示する.委員会開催の部屋にプロジェクターとケーブルを持って行き,接続する.出版担当の先生からプログラム冊子が研究室に郵送されるので,それを会場に運ぶ.予稿集のデータをUSBメモリにコピーして会場に持って行く.レーザーポインターを会場に持って行く.各種事務用品を会場に持って行くように別の担当者に依頼する.賞状を印刷するためのインクジェットプリンタを会場に持って行く.会場の駐車場を利用する手続きをしてもらうように業者に言う.会場内のどこをクロークとするかやドリンクを置くかなどを決める.デモ機材は会場にどうやって送ればいいかと返却するときどうするかを業者経由で会場と相談し,その結果をデモ担当の先生に伝え,着払いの伝票を用意してもらうように業者に言う.アクセスマップとフロアマップとランチマップを作成し,出版担当の他大学の先生にファイルを送る.

ここでは,Program Chair(プログラム委員長)の業務を紹介する.実行委員会のメンバーで打ち合わせをおこなう.基調講演の発表者を選定して,やり取りする.CFPを執筆してメーリングリストに流す.プログラム委員を選定する.論文の査読を割り当てる.論文の採否を判定して,著者に結果を通知する.Easychairの申し込みをし,支払いをし,設定をし,プログラム委員を追加し,査読割り当て作業をする.プロシーディングスの前文を執筆する.プロシーディングスの内容が正しいか確認作業をする.座長の割り当てをして依頼する.開会と閉会の挨拶をする.基調講演の座長をする.賞の選定と副賞の購入と賞状の印刷をする.開催報告記事の執筆と執筆依頼をする.引き継ぎをおこなう.

【112日間】授業

授業の実施.講義資料の作成および修正.講義資料のコピー,アップロード,印刷.課題の設定.レポートの採点.サンプルプログラムの作成.中間試験および期末試験の作成および採点.

前期と後期あわせて5科目程度を担当.

【17日間】資格試験(検定試験)

資格試験(検定試験)の問題は大学教員が作成している.試験を実施している団体が問題を作成しているわけではなく,大学教員に依頼している.問題作成者は公表されないため,資格試験(検定試験)の問題作成に携わっているかどうか分からないし,携わっている人でもどの試験に携わっているか分からない.どれだけの教員がどれだけの作業負担を負っているか分からない.

【27日間】入試業務

入試業務は公開されていない業務である.試験監督や面接官や問題作成や採点などの業務をおこなう.どの程度の業務量かは公開されている情報をもとに推測するしかない.公開されている情報として,教職員数,教室の規模,入試の種別,入試の科目,過去問,受験者数などがある.

【5日間】画像鑑定

裁判のために必要な画像鑑定の仕事を請け負うこともある.

【72日間】教科書執筆

学会から依頼を受け,教科書の執筆に携わることがある.また,他の執筆者から共著者として参加して欲しいという依頼が来ることもある.参考となる書籍や論文を読んで,理解する.著作権の侵害にならないように注意しながら執筆し,添削する.ファイル共有サイトで原稿のダウンロードやアップロードをおこなう.他の人の担当部分を添削する.執筆した数式やアルゴリズムが正しいかどうか検証するためにプログラムを作成する.教科書に載せる図を作成するため,プログラミングをしたり,市販のCGソフトで画像を作成したりする.共同執筆者の依頼のため,他大学の教員のもとに伺ったりメールをしたりする.共同執筆者と遠隔でミーティングをしたり,メールで議論したりする.索引に載せる用語をリストアップする.本を贈答する相手をリストアップする.大学教員の多忙な業務の片手間に執筆するため,出版まで2~3年かかるのは何ら不思議なことではない.

【13日間】アートプロジェクト

芸術学部の先生と共同で社会貢献事業を実施することもある.

【20日間】社会人向け授業

社会人向けの授業を実施することもある.そのために講義資料を作り直す.

【6日間】高校での模擬授業

高校に行って模擬授業を行う.そのための書類手続きをおこなう.既存の講義資料や研究発表資料からスライドを寄せ集めたのち,高校生にも分かりやすいように表現を変えたり説明を追加したりして,模擬授業の講義資料を作成する.

【176日間】研究および研究に関連する各種業務

やるべき内容は多岐に渡るため,個々の業務にはあまり多くの時間を割けない.また.他の業務の合間に研究をおこなうため,集中して研究に取り組む余裕はない.以降,業務内容を記す.

内訳:21日間【インストール】研究に必要なソフトウェアの種類は多い.大学教員の業務は研究だけでなく多岐に渡る作業をおこなうため,業務遂行に必要なソフトウェアの種類は多い.業務効率を上げるため,パソコンの設定を変えたりもする.セキュリティの向上のため,ソフトウェアのバージョンアップやウィンドウズアップデートも実行する.不要なソフトはアンインストールする.定期的にバックアップやウィルスのフルスキャンもおこなう.

内訳:29日間【出張】日本語でおこなわれる学術会議を国内会議,英語でおこなわれる学術会議を国際会議と言う.国内会議や国際会議に出席し,自分の研究を発表する.また,他の人の発表を聞き,最新の研究の知識を獲得する.学会の委員などに従事している場合,委員が集まって打ち合わせをする実行委員会に出席することがある.こういった国内会議では委員が参加するため,国内会議に合わせて委員会を開催することが多い.また,学術会議以外でも,企業との打ち合わせや出版社との打ち合わせなど,様々な理由で出張する.
内訳:25日間【出張準備】出張のための旅程を調べる.ホテルやフライトを予約する.出張の申請書を書いて提出する.学術会議であれば参加登録をして参加費を振り込む.出張から戻った際は報告書を書いて提出する.また,参加費を処理するための書類を書いて提出する.

内訳:8日間【外部予算・報告】科研費などの外部予算を得ている場合,毎年書類を作成する.主に研究の進捗を報告するための書類だが,その他の種類の書類を書くこともある.
内訳:43日間【外部予算・申請】科研費などの外部予算を獲得するためには審査を通らないといけない.審査は厳しいため,申請書類の作成には入念に時間をかけて作成する.論文をサーベイして得た知識にもとづき,研究内容や理論を考案する.数式を組み立てることで理論を考案する.また,その理論が正しいか確認するため,手計算や電卓や表計算ソフトで検算をおこなったり,自分でプログラムを作成することもある.理論を検証するためのプログラムを実行させるためのサンプル入力データを作成したり,サンプル入力データを生成するプログラムを作成することもある.予備実験のために計測機器でデータを取得することもある.審査員に内容が魅力的に伝わるようにするため,申請書に載せるための図として,写真を撮影したり,図やグラフを作成したり,また,図を作成するためのプログラムを作成することもある.研究遂行に必要な機器を調査し,業者に見積を依頼する.申請書の内容で採否が決まるため,申請書は何度も書き直す.申請に伴って他に必要な書類があればそれも用意する.申請書の書き方のコツを紹介する動画や書籍を読む.

内訳:11日間【論文サーベイ】最新の研究の知識を身に付けるため,学術論文を読む.研究のおおまかな内容をつかむ場合は,必要最小限の箇所だけを見つけ出し,その部分だけを読む.実際に自分の研究に利用する場合は,実装方法を理解するため,理論の部分を徹底的に深く何度も読み込む.専門書やウェブページを読んだり,関連するソフトウェアを使ってみたり,ウェブセミナーを聴講したりすることもある.研究を考案するのに学術論文の知識が豊富なほうがいいが,大学教員には論文を読む時間はほとんどない.また,インプットばかり熱心になる一方,肝心のアウトプットがおろそかになってはいけいない.

内訳:14日間【企業との研究・学生との打ち合わせ】企業と共同研究をすることもある.大学教員が研究そのものに携わる時間はないため,実際に研究を遂行するのは学生か企業の研究員である.そのため,進捗を確認し,問題点に対するアドバイスをし,次におこなう作業の指示をするために打ち合わせをおこなう.
内訳:7日間【企業との研究・資料作成】学生や研究員がおこなった研究を資料としてまとめ,企業とメールのやり取りをする.
内訳:2日間【企業との研究・企業との打ち合わせ】大学教員が研究そのものに携わる時間はないため,せめて提供できる知識は全て提供したい.そのため,企業と打ち合わせをおこない,知っている限りの情報を提供する.

内訳:11日間【国内会議・論文執筆】学生の卒論を論文にまとめて国内会議に投稿する.
内訳:14日間【国内会議・発表資料】過去に自分の作成した発表資料などを組み合わせて,一部の図を作り直し,口頭発表資料やポスターを作成する.
内訳:40日間【国際会議・論文執筆】修士課程に進学する学生は少ないし,博士課程まで進学する学生はほとんどいない.そのため,卒業生の卒論・修論を外部発表論文にするのは教員の役目である.学生の卒論・修論をまとめ,外部発表論文にふさわしい内容に書き換える.より良い論文になるように何度も書き直す.その日本語論文を英文翻訳会社に依頼し,英語にする.投稿にあたって必要なカバーレターも執筆する.また,研究内容を伝えるための動画を作成することもある.論文が採択されたあと,カメラレディ原稿として書き直す.
内訳:6日間【国際会議・発表資料】過去に自分の作成した発表資料などを組み合わせて,一部の図を作り直し,口頭発表資料やポスターを作成する.
内訳:11日間【和文論文誌・論文執筆】修士課程に進学する学生は少ないし,博士課程まで進学する学生はほとんどいない.そのため,卒業生の卒論・修論を外部発表論文にするのは教員の役目である.学生の卒論・修論をまとめたものをベースに,図や文章を作りかえ,理論の説明を追加するなど,外部発表論文にふさわしい内容に書き換える.より良い論文になるように何度も書き直す.査読結果が返ってきたら,査読者の指示に従い,追加の実験をおこなったり,論文を書き直したりする.査読者に対する回答文も書く.採録が決定したらカメラレディ原稿として論文を書き直す.ゲラ刷も確認して修正する.
内訳:50日間【英文論文誌・論文執筆】修士課程に進学する学生は少ないし,博士課程まで進学する学生はほとんどいない.そのため,卒業生の卒論・修論を外部発表論文にするのは教員の役目である.過去に自分の書いた英語の論文をベースに,学生の卒論・修論を参考にしながら書き換える.図や文章を新たに作成する.プログラムを作り直したり,追加で作成したりもする.実験を追加するためデータ計測もおこない,データの処理もおこなう.より良い論文になるように何度も書き直す.英文校正会社に依頼し,英語の間違いを直してもらう.投稿にあたって必要なカバーレターも執筆する.査読結果が返ってきたら,査読者の指示に従い,追加の実験をおこなったり,論文を書き直したりする.査読者に対する回答文も書く.採録が決定したらカメラレディ原稿として論文を書き直す.ゲラ刷も確認して修正する.

内訳:25日間【プログラミング】情報科学の研究においてプログラミングは必須であるが,大学教員にはプログラムを作成する時間はほとんどない.研究で使用する計測装置は当然ながら特殊なものが多く,研究に適した形式のデータになっていない場合がある.そのため,計測データを変換して,研究に利用可能なデータにするプログラムを作成する.研究のメインの処理となるプログラムの動作を確認するため,簡単なデータを入力して,その挙動が理論通りかどうか確かめる必要がある.そのために,その入力データを生成するためのプログラムを作成する.研究に必要なプログラムのうち,根幹となる部分における一つの機能の動作を確認するため,その機能のみのプログラムを作成する.これは,根幹となる重要な部分であるため,学生にまかせず教員が実装したほうが,学生が勘違いして実装するのを避けることが出来ることが理由であったり,そういった重要な部分は往々にして実装が難しいので教員が実装するしかないことなどが理由である.研究のメインの処理を実行して出力結果が得られても,その出力結果のままでは動作が適切に行われたか確認できない場合があったり,他の目的に利用できない場合がある.そのため,そういった出力データを加工する後処理プログラムを作成する.また,研究のメインの部分を実装することもある.
内訳:9日間【プログラムを業者に依頼】業務の効率化のためにアウトソーシングすることは基本中の基本である.業者に依頼してプログラムを作ってもらえるならそれに越したことはない.仕様を作成し,業者と打ち合わせをし,業者に参考資料を渡し,契約書類などを作成する.しかし,業者に依頼することがいいこととは限らない.プログラム開発の費用は主に人件費であるため,費用が大きいという問題があるにはあるが,それに見合った成果物が得られることや,金を払うだけで時間が得られるなら安いものであるため,費用の問題は些細な問題である.それよりも問題なのは,「研究」という最先端の技術を実装するにあたっては,業者に依頼するには効率が悪いことである.「時間」を削減するのが目的であるため,打ち合わせや仕様作成に時間をとられては元も子もない.例えば「○○の研究に必要なプログラムを作成してください」と一言業者に依頼するだけでそのプログラムを作ってくれるのが最も効率がいいが,それは出来ない.なぜなら「○○の研究に必要なプログラム」の作成方法がこの世のどこにも存在しないからだ.新しい研究を依頼するのではなく,既存の技術の作成を業者に依頼するのはどうだろうか.それならば「□□の研究」の論文が手に入る.しかし,「□□の研究」の論文には,そのソフトウェアの実装方法は書かれていない.もちろん,研究者から見れば,論文を読めば内容は理解できるが,業者から見れば,業者がソフトウェア開発に必要な仕様書とはほど遠いほど論文の内容は具体性がない.そのため,その論文の内容をもとに,教員側で説明資料を作成する必要がある.しかし,そこまで時間をかけて資料を作るくらいなら,情報科学の教員のほうが業者よりもその研究に関するプログラミング能力は高いのだから,教員自身で実装してしまったほうが早い.とはいえ,教員にプログラミングをする時間などないから,ここでジレンマが起こる.そもそも教員が普段作成するプログラムと業者が得意とするプログラムは異なるため,適材適所という観点から言えば,業者が普段作成するようなプログラムならば教員よりもプログラミング能力が高く,業者が得意とするプログラムを依頼すべきである.また,論文を説明した資料を渡して業者に依頼しても,自分の満足のいくソフトウェアにならないこともある.そのような状況であるため,業者にプログラムを依頼する際は,最先端の内容を依頼するケースは少なく,主に,計測データを処理するプログラムなど,研究のメインプログラムの前処理のプログラム,既存技術で実装できる部分,説明に時間のかからない部分を依頼するケースなどが多い.学術的価値のあるプログラムは学生や教員が実装するので,学術的価値の低い部分を業者に依頼することが多い.もちろん,学術的価値の低いプログラムは実装も簡単であるため,学生や教員でも簡単に実装できる.だからといって,学生や教員が実装するのは間違っている.学生や教員はそんな学術的価値の低い部分に時間かけてないでもっと学術的価値の高い部分に時間を注ぐべきであるからである.

内訳:8日間【実験・データ計測】研究において実験は必須である.一般的に,情報科学分野において実験と言えば,プログラムを走らせることを言うが,コンピュータビジョンの分野では自然科学分野と同様,現実世界での実験もおこなう.理論をもとにプログラムを作成し,その理論を検証するために実験をおこなう.理論を検証するのにふさわしい計測対象物体を準備する.様々な実験装置を配置して,実験の目的に沿った方法で計測する.研究というものは今までにない新しいことをやるのであり,その実験方法はこの世のどこにも存在していないため,研究内容に沿ったデータを適切に計測するには試行錯誤が必要となる.例え,既存の研究と同じ実験をやる場合であっても,既存の論文に実験方法が書かれているわけでもなければ,既存の論文の実験装置が市販されているわけでもない.そういったノウハウを得るためにも,実験にはもっと時間を割くべきであるが,大学教員にはそのための時間は用意されていない.
内訳:13日間【実験・データ処理】計測したデータは処理をする必要があるが,研究というのは今までにない新しいことをやるため,その計測装置はその研究をやるために市販されたものではない.そのため,研究で処理できるようなデータに変換する必要がある.前処理の内容によって,手作業でおこなったり,表計算ソフトやテキスト処理ソフトで処理したり,自分で作成したプログラムで処理をしたり,と様々である.その後,メインプログラムで処理するが,メインプログラムで動作させるのに必要なパラメータを調整する必要がある場合もある.出力されたデータを後処理プログラムで処理する.得られたデータを表やグラフや図にする.

内訳:19日間【研究機材・購入】研究とは新しいことをおこなうことであるため,必然的に計測装置も特殊なものになることが多い.他のメーカーでは作っていないような特殊な装置を購入することが多い.社員が10人くらいで,そのうちエンジニアが2人しかいないような,欧米の小さなベンチャー企業の装置が必要となることがある.工場のベルトコンベアで大量生産されるような一般的な物ではなく,一点物の完全受注生産である.部品を他の業者から取り寄せて,組み立てて,検品して,船に乗って日本の税関手続きがされて,日本の代理店に届くため,納期が遅れることは何ら珍しいことではない.また,特殊な装置であるため,その装置単体では動かず,別途別の部品を購入しなければ想定した動作をしないこともある.研究に必要な小規模の部品であっても,大量生産されているわけではない.そのメーカーに在庫があれば,数週間で届く部品も,在庫がなければ再生産となって数ヶ月後にならないと届かない.必要な部品が複数あり,その一部の部品の在庫が数個しかない場合,とにかくまず真っ先にその部品だけを早急に購入しなければいけないのは当然のことである.金額と在庫は業者とやり取りをおこなって見積を依頼する.その見積をもとに購入書類を作成し,提出する.
内訳:14日間【研究機材・組み立て】研究とは新しいことをおこなうことであるため,研究に必要な計測装置が市販されていないことが多い.そのため,研究に必要な実験装置を自分で作る必要がある.研究の目的と取得したいデータをよく考え,各部品の長さや幅などを考えてサイズが適切かを考え,ネジのオス・メスはもちろん,ミリネジかインチネジか,そのサイズなども考える.部品を組み合わせるとぐらついたり緩んだりするので,それを防ぐ設計にしないといけないが,どうしても部品の関係上完全に防ぐことは出来ないため,そうではなく逆に,後から様々な箇所を微調整して問題を修正することがやりやすいような設計にしたほうがいい.いざ組み立ててみると思ったより不満点が出てくることが多いので,実験装置を組み立てる際は完璧を目指すのではなく改良のしやすさ,すなわちスケーラビリティを重視して,完成品ではなく試作機を作るつもりで設計するのが基本である.組み立てている間に足りない部品が出てくることがあるので,即座に部品を買いに行く.そもそも,光沢や硬さや透明度やざらつきや加工のしやすさなどはカタログでは分からず実物を見ないと分からないので,実験装置の組み立てに必要な部品は店で買うのが常識である.
内訳:15日間【研究機材・動作確認】実験装置の動作確認をおこなう.計測装置は特殊な装置であるため素人向けに作られているわけでもなく,そもそも,研究とは新しいことをやる必要があるため,その計測装置はその研究のために作られたものではない.また,自作の実験装置は専門の業者ではなく素人である教員が作ったものである.つまり,実験装置はこの上なく使いづらい.想定した通りのデータを取るだけで大変な作業であるため,事前に何度も予備実験をおこなう必要がある.
内訳:10日間【研究機材・マニュアル作成】装置のマニュアルは存在するため,それを学生に渡すだけで実験が出来るかというとそうではない.英語で書かれていて一般人向けではないマニュアルだから学生には難しいということもあるが,それ以上に,その機器のマニュアルにはその機器の使い方しか書いていないということのほうが問題である.つまり,その機器のマニュアルには「○○の研究に必要なデータの取得方法」が書かれていないのである.研究とは新しいことをやることであるため,そのマニュアルはおろかウェブ上にも,その研究に必要なデータの取得方法は載っていないのである.その研究に必要なデータを取るための,装置の設定パラメータをどうするか,どのような配置で,どのような手順で,どのような操作で,どのようなデータを取ればいいか.そういったマニュアルを教員が作成して,学生に渡すことになる.
内訳:16日間【研究機材・廃棄】廃棄する予定の物品の写真を撮影し,寸法を計測し,メーカーと型番を記録し,物品の管理番号を記録する.リストを作成し,研究室スタッフや事務局や業者とやり取りをする.学生にお願いして,廃棄する物品を運んでもらう.

内訳:30日間【ゼミ・輪講】英語の学術専門書や英語の学術論文を学生が読んだり,英語の発表を学生が聞いて,その内容をまとめたものを発表する.
内訳:12日間【ゼミ・発表会】自己紹介や研究紹介,計画発表や中間発表などをおこなう.研究室の新人のための練習問題として課したプログラミングコンテストの発表会をおこなうこともある.研究室の新人と進路相談をする.
内訳:60日間【ゼミ・ミーティング】多くの研究室では,研究室の学生は研究内容に応じて2~3グループに分けることが多い.各グループごとにミーティングをおこなう.進捗状況を聞き,問題点に対するアドバイスをし,次の作業の指示をする.

内訳:15日間【研究立案】研究内容は教員が考案することが多い.学生は研究分野に対する知識が少ないためである.また,教員は論文を投稿した経験も多い上に,論文を査読した経験も多いため,研究の善し悪しが分かっている.また,教員は研究をおこなった経験も多い上に,研究を指導した経験も多いため,研究に必要な知識や時間を見積もることも出来る.また,外部予算の研究計画や教員のキャリアパスなど様々な事情により教員が研究内容を決めなければいけないこともある.さらに,研究の詳細も詳しく立案する.理論が正しいかどうか数学的に検証したり,手計算や表計算ソフトなどで検証したり,自分でサンプルプログラムを作って検証したり,予備実験をおこなうこともある.しかし,大学教員は忙しいため,十分な研究立案は不可能である.

内訳:10日間【学生研究指導・説明資料の作成】学生でもプログラムを実装できるように,研究のアルゴリズムを詳しく説明した資料を作り,その資料の通りに実装すればプログラムが作れるように入念に準備をする.参考となるソースコードを渡す際,そのソースコードを説明した資料を作って渡すことが多い.
内訳:3日間【学生研究指導・参考文献の調査】学生が研究を進めるにあたって参考となる論文を探して渡す.
内訳:5日間【学生研究指導・外部発表論文の添削】学生が国内会議に投稿する論文の添削をする.
内訳:7日間【学生研究指導・外部発表資料の添削】学生が国内会議や国際会議で発表する口頭発表資料やポスターの添削をする.
内訳:12日間【学生研究指導・卒論修論の論文の添削】学生が書いた卒論・修論の添削をする.卒論・修論の一部の図や文章を執筆することもある.
内訳:4日間【学生研究指導・卒論修論の発表資料の添削】学生が卒論・修論の発表会で発表する発表資料を添削する.
内訳:8日間【学生研究指導・卒論修論の発表】学生の卒論・修論の発表練習やリハーサルや本番の発表を聴く.
内訳:5日間【学生研究指導・データ処理】学生が取得したデータの処理をする.
内訳:10日間【学生研究指導・デバッグ】学生が作ったプログラムのデバッグや改良をする.そのプログラムが理論と一致しているか,数学的・物理学的に正しいか確認する.学生のプログラムの動作を確認するため,動作確認用データを手作業またはプログラムを自作してデータを作成する.
内訳:58日間【学生研究指導・個別対応】ミーティングだけでは細かいところまでは指導できないため,学生が研究を進めるうちに分からないことが出てきた場合,その都度学生と相談する.進捗を確認し,問題解決のためのアドバイスをし,次にやるべきことを指示する.計測装置の使い方と実験手順を説明する.論文や原稿や発表資料やプログラムを渡す.プログラムの解説資料を渡す.理論やアルゴリズムを説明する.引き継ぎ資料を渡し,引き継ぎ資料を受け取る.


大学教員は暇

以下,事実を元に構成した架空の大学教員の業務量を示します.1年間の従事日数はあくまで予想に過ぎません.架空の従事日数であり,特定の教員のことを書いたわけではないため,もし「俺のことをバカにしている」と思った教員がいるのだとしたらそう思った本人が暇な教員であることを自分自身で自覚していることを意味します.

【18日間】査読

国内会議の論文5件,和文論文誌のべ2件の査読を行う.

【32日間】学内委員

業務量の低い委員会・ワーキンググループや,持ち回りで担当するチューター業務などをおこなう.

【78日間】授業

前期と後期をあわせて3科目程度を担当.

【17日間】入試業務

【123日間】研究

主に学生にやらせて,自分では苦労をしたがらない.


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